【 あらすじ 】(上の巻)
遠江の国の或る村に伝わる掟。
ここでは、村祭りの日に「白羽の矢」が立った家の娘を、山の祠に人身御供として差し出さなくてはなりません。 丁度通りがかりの旅僧が事の仔細を聞き、神
が人身御供を求める事を不審に思い、社の縁の下に隠れて様子を窺います。するとどこからともなく大勢の鬼達が現れます。 … 上の巻「白羽の矢」
はここ迄の部分です…
鬼達は、口々に、「きっしょ 早太は おるまいの」 「今月今夜 このことばかりは
きっしょ 早太に 知られるな」…と、そう言い ながら娘の入った葛篭(つづら)を担ぎ去ります。 一部始終を知った旅僧は、鬼達は、その「きっしょ」
「早太」 が苦手に違いない。二人を探して、鬼退治をしてもらおうと、 旅に出ます。
ここ、武蔵の国の、とある村迄来た僧は、名主の息子に「早太郎」と言う息子がいる事を聞き、その名主の家を訪ねて委細を話します。
そこには「きし」という美しい奉公人がおり、いつしか早太郎とは割りなき仲。
話を聞いた、きしは「〈きっしょ〉とは〈きしと…〉の聞き違いに相違ない」と、自分も共に連れて行ってくれと望み、更
に、この家に伝わる宝珠を貸し与えて欲しいと願います。 実は、その宝珠こそが、長年きしが捜し求めていた宝珠です。
〈きし〉とは実は《吉祥天女》の仮の姿で、その昔「羽衣の松」の折、衣の他に、旅人に拾われて持ち去られてしまった「吉祥天女の宝珠」そのものだったのです。…勿論、未だそうとは
知れていない…三人は連れ立って遠江の国へと旅だちます。
【プロローグ】(〓この色が歌詞)
従来で言う「置唄」に当たる部分。 一オクターブの音で、 ゆったりと出る音は物語の始まりと劇性を予感すると共に、後に出てくる主リズムへの自由な移行を含んでいます。
そして…
〓遠江の国の 夏祭り
…祭の合方…夏祭りが、始まります。
【祭 り】
いきなり主リズムによる解放絃での早間の場面となります。 三味線音楽では、今迄使われていなかった
リズムで、楽器による 場面表現が続きます。 ボサノバ等に通じるリズムで、祭の持つエ ネルギーを現代の感覚で感じています。
祭の始まる頃は、ま だ夕暮れ時かも知れません。 やがて夕闇と共に、
〓豊饒祈る 村人の
の辺りから、盛り上がりを見せる長い祭は、 突然凍りつく恐怖に変 わります。
【ストップモーション】
〓笛の音凍る 一条の光 夜陰をつらぬく
踊っていた仲間が、山の奥の方から青白く筋を引く光を見つけます。
〓見ろー 白羽の矢じゃ〜
実際に矢が飛来する時間は何秒と言う単位なのでしょうが、人々の身も凍る恐ろしさと悲しみの予感で、一瞬時間は止まり、それはあたかも、スローモーションの映像を見るが如く、白羽の矢が光の糸を曳いて飛んで来ます。
そして、矢が農家の軒先に突き刺さった時、 時間は、はっと元に戻ります。…ここのみシンバルでジャーーーーン!
【村の定め】
白羽の矢が刺さった家では恐ろしさと悲しさに苦悶します。
〓なぜじゃ なぜなのじゃー わしところの 娘がー 人身御供なんてエ いやじゃ
いやじゃ いやじゃ いやじゃー
〓おとお おかあ 村の為じゃー 村の定めじゃー みんな元気でなー
【送 り】
来る年の豊作を願う為、村の為、掟に従い娘の入った葛篭は、山の祠に続く、幾重にも曲がる葛篭折れの道を登って行きます。
肩にくい込む心の重荷と共に…。
〓涙に濡れて 葛篭折れなる 身の重き
哀れはかなくも、掟に縛られ、娘の命は悲しみの淵に沈む事とな ります。
【エンディング】
物語りとしての、上巻の終わりで、劇的悲しみを救う手立ての後編へと繋がって行きま
す。 《上の巻前編END》
Topへ//上の巻解説へ//下の巻解説へ
|
…◇…◇…下の巻解説…◇…◇…
門の両とびらに描かれているのは吉祥天女のまわりに座す「梵天」と「帝釈天」。
ちなみにこの絵は、横にした模造紙を3枚つなげて墨で描いたものです。(Tokueの手作り)
|
【あらすじ 】(下の巻)
あれから一年経った遠江の国の村。今年も巡る夏祭り。白羽の矢が立ち、今日にも人身御供を差し出さなくてはならず、村人は悲嘆に暮れて「ます。
折しも、やっとの事でたどり着いた三人は、村人に訳を話します。
〈きし〉が身代わりとなり葛籠の中へ。早太郎と僧は木立の蔭にと忍びます。
【闇の合】
〓きっしょ 早太は おるまいの 今月 今夜 この事ばかりは きっしょ 早太に 知られるな
鬼達は、そう言いつつ辺りを窺いながら現れます。遠巻きにしていたのが徐々にと葛籠に近づき、葛籠に手を掛けます。蓋を少し開けたところで、一瞬眩いばかりの光が射します。
慌てて蓋を閉じる鬼。 怪訝な鬼達が、再度葛籠に近づき、思い切って蓋を取ります。
【吉祥天女出の合方】
葛籠の中から吉祥天女が光を放ち気高く現れます。
【立ち回りの合方】
驚く鬼達。すかさず飛び出す早太郎。立ち回りとなります。
早太郎が危ない!。すかさずかざす天女の宝珠。二人は協力しあいながら遂に鬼達は退治されます。
闘い済んで、吉祥天女の名乗り。(ここまでは三味線・琴の器楽だけで表現されてます。)
〓私は吉祥天 いとしい早太 この宝珠は もとは私のものでした
この様に私の手に戻りし上は 私は天に帰らねばなりません
武蔵の国の あの村は 吉祥寺 と 名付けるよう
末百年 あなたの村を守りましょう
【吉祥天昇天の合方】
愛しい早太郎に事を話し、武蔵の国のあの村を、自分の縁で「吉祥寺」と名付けるよう言い残し、後光の中、吉祥天女は高く、高くと、昇天します。
〓武蔵の国よ 吉祥寺よ とこしえに
空から降り注ぐ声はやがて遠く遠くに…《下の巻後編END》
Topへ//上の巻解説へ//下の巻解説へ
|